【知られざる東京】映画『レマゲン鉄橋』と永代橋の意外な関係

大正15年架橋の現在の永代橋(国の重要文化財)のモデルとなったのが、ドイツのライン川に架かり、レマーゲンとエルペルを結んでいた鉄道橋・ルーデンドルフ橋 (Ludendorffbrücke)。この橋、実は、映画ファンにはおなじみの『レマゲン鉄橋』の舞台だったのです!

レマゲン鉄橋と永代橋、実はパクったほどにソックリ!

レマゲン鉄橋(The Bridge at Remage)
重要文化財に指定の永代橋

ルーデンドルフ橋というと、なんのこっちゃろという感じですが、レマーゲン(Remagen)と対岸のエルペル(Erpel)を結んでいたため、レマゲン鉄橋(ドイツ語:Brücke von Remagen/英語:The bridge at Remagen)と通称されていました。

第2次大戦末期まで橋は落ちることなく存在し、ドイツ軍とアメリカ軍の間で、その橋を巡っての争奪戦(Battle of Remagen)が繰り広げられます。
退却するドイツ軍にとって、連合軍の攻撃を少しでも遅らせるため、レマゲン鉄橋(レマゲンにある橋の意。正式名はルーデンドルフ橋)をなんとか爆破したいという意向と、ヒットラー総統による至上命令があったのです。

対する連合軍は、なんとかこの橋の爆破、崩落を阻止して、ライン川の渡河をスピーディに済ませたいという目論見がありました。
第二次世界大戦で、これほど注目を浴びた橋は他にはありません。

その攻防戦を描いたのが、映画『レマゲン鉄橋』(The Bridge at Remagen/1969年/アメリカ映画)。

橋が残ったことは連合国で「レマゲンの奇跡」と呼ばれ、爆破に失敗したドイツ軍の将校は軍法会議にかけられて処刑されています。
連合軍が多大の犠牲をかけて守り抜いたレマゲン鉄橋ですが、その後、橋は補強工事中にあえなく崩落。
現在は橋脚が残るのみで、その勇姿を見ることはできません。

米独両軍によるレマゲン鉄橋攻防の図
崩落後の無残な姿のレマゲン鉄橋

関東大震災からの復興計画で、隅田川をライン川に見立てた!?

ではなぜ、永代橋はレマゲン鉄橋をモデルにしたのでしょうか?

現存する永代橋は関東大震災からの帝都復興を目的に東京市復興局が架橋したのですが、実は、永代橋と清洲橋は他の隅田川に架かる橋、江東区の運河地帯に架けられた復興橋梁群のなかでは、別格の扱いだったのです。

まず、隅田川6橋を含む震災復興橋梁群は、設計から施工・材料の供給まですべてを、日本人の手と原材料で行なうことが義務付けられていました。

永代橋は、隅田川の河口に近く(江戸時代までは江戸湾に面した霊岸島の横)、地盤が軟弱なことから施工技術が進んでいたアメリカから3人の技術者を招聘(しょうへい)という特別扱い。

清洲橋が女性的な流麗な「震災復興事業の華」という位置付けに対し、永代橋は重厚さを演出する「帝都東京の門」というのが、架橋にあたっての東京市復興局の基本方針だったのです。

東京市復興局の『永代橋設計計算書稿』には、
「雄大なる環境に調和することは、区々たる局部的装飾の能くする処にあらず、橋梁そのものが全体として表現する気分によってのみ果たさる」とキッパリと記されています。

永代橋は、江戸時代、老朽化した木造橋を温存して利用したため、死者1000名以上という歴史に残る橋の崩落事故を起こしています。
そういったマイナスイメージを払拭するため、力強い橋が望まれたのかもしれません。

設計を担当したのは、ドイツ、アメリカに留学経験があり、設計当時は内務省復興局技師だった田中豊。
蔵前橋、駒形橋、言問橋、清洲橋や、総武線・隅田川橋梁や東武伊勢崎線・隅田川橋梁など隅田川の橋脚をメインに新潟の万代橋なども設計し、後に土木学会会長も務めています(計画・設計・施工・美観などの面において優れた特色を有する橋梁には、現在「土木学会田中賞」が授与されています)。

清洲橋はケルンの吊り橋(ケルン・ヘンゲブリュッケ橋)をモデルにされているといわれていますが、橋は現存しておらず(ケルンは第二次世界大戦中、ドイツの都市の中でも最も多くの空襲を受けた都市)、またケルンの吊橋のコンペで次点となった作品をモデルにしたという説もあって定かでありません。

いずれにしろ、ライン川に架かる流麗な吊橋をモチーフにしたことには事実で、隅田川をヨーロッパのライン川のような位置づけにしたいという復興局の思いが伝わってきます。

1918年12月13日、ルーデンドルフ橋を渡る米軍
米軍占拠後、ライン川西岸からのルーデンドルフ橋

アメリカ映画『レマゲン鉄橋』(The Bridge at Remagen)

レマゲン鉄橋(ルーデンドルフ橋)は連合軍の制圧後に崩落し現存しないため、映画のロケは、チェコスロバキアはヴルタヴァ川沿いのダヴレにある、20世紀初頭に建設されたダヴレスキ橋で行なわれた。
出演は、レマゲン鉄橋に迫るアメリカ軍の機甲歩兵大隊を率いたバーンズ少佐役をブラッドフォード・ディルマン(Bradford Dillman)、ドイツ軍のクリューガー少佐をナポレオン・ソロ役で有名なロバート・ヴォーン(Robert Vaughn)が演じています。
制作・原作はデイヴィッド・L・ウォルパー(David L. Wolper)。

ちなみに、『レマゲン鉄橋』のオープニングに演奏される主題曲は、テレビ朝日系列『いきなり!黄金伝説』・『よゐこの無人島0円生活』の濱口優のBGMとして使われています。

バーンズ少佐を演じたブラッドフォード・ディルマン
 

永代橋
名称 永代橋/えいたいばし
所在地 東京都中央区新川、江東区佐賀
電車・バスで 東京メトロ東西線・都営地下鉄大江戸線門前仲町駅から徒歩12分
駐車場 周辺の有料駐車場を利用
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ラジオ・テレビレジャー記者会会員/旅ソムリエ。 旅の手帖編集部を経て、まっぷるマガジン地域版の立ち上げ、編集。昭文社ガイドブックのシリーズ企画立案、編集を行なう。その後、ソフトバンクでウエブと連動の旅行雑誌等を制作、出版。愛知万博公式ガイドブックを制作。以降、旅のウエブ、宿泊サイトにコンテンツ提供、カーナビ、ポータルサイトなどマルチメディアの編集に移行。