1698年(元禄11)年8月、隅田川に架橋された永代橋。富岡八幡宮の鎮座する永代島(えいたいじま)に通じる橋で、赤穂浪士の吉良邸討ち入りの際にも使われたという木橋です。大渡し(深川の渡し)のあった場所に架けられた隅田川4番目の橋。1807(文化4)年に崩落しているので、浮世絵の橋はその後の架け替え。
歌川広重『江戸名所 永代橋佃島』(藤慶版)
江戸時代の永代橋が隅田川の河口に架かっていたことがよく分かる構図の錦絵。右奥の半島のように見えるのは、佃煮で知られる佃島。
まだ江戸湾に浮かぶ島でした。近代的な東京港ができるのは、関東大震災以降の昭和になってからで、江戸時代には川湊に荷を下ろすため、張り巡らされた運河を目ざして、はたまた隅田川の両国、浅草を目ざして川を遡っていました。
菱垣廻船、樽廻船に使われるような大型の弁財船(べざいせん)は川に入ることができないので、品川沖で小舟に荷を積み替えていました。
歌川広重『東都名所 永代橋全図』(蔦屋吉蔵)
初代の広重は、1832(天保3)年に一立齋(いちりゅうさい)と号を改めていますが、この作品は、一立齋広重となってから。
右奥に佃島が描かれ、対岸には深川新地とあり、江戸の町が盛んに干拓をしていたことがよくわかります。佃島沖に帆を降ろした大型の弁財船が停泊し、荷を移した小舟が隅田川の上流へと帆を上げています。
当時は日本橋川が橋の下流側で隅田川に合流していたことも描かれています(下の江戸切絵図を参照)。現在では上流側で合流しています。
江戸時代の永代橋は、現在の架橋位置から100mほど上流にあったのです。
渓斎英泉『東都永代橋の図』
美人画や春画も描いた渓斎英泉の作品。『木曽街道六十九次』では歌川広重と合作しているので、その力量はさすがというべきですが、広重に比べると少し漫画チックな味わいもある『東都永代橋の図』。
このアングルだと、橋脚が非常に高いのがよくわかります。もちろん、これまで説明したように帆掛け舟が下を通るためです。
歌川広重『東都名所 永代橋深川新地』
渓斎英泉の絵に比べると橋脚が短く感じるのは、干満の差でしょうか。河口に位置していたこと、橋脚が長かったこともあって、橋の上は超脳バツグン。
『武江図説』によれば、「西に富士、北に筑波、南に箱根、東に安房上総」というほど絶景の地だったとか。
この図も、よーく見ると佃島の上に、富士が描かれています。
ドローンでも飛ばさない限り、実際にはこの角度で富士山を見ることはできないのですが、ここに描くということは富士山が橋の上から見えたことに間違いはありません。もう少し右という気もしますが・・・。
歌川国綱『江戸名所之内 永代橋の風景』
初代歌川豊国門人の歌川国綱の作。合巻(ごうかん)などの挿絵をおもに描いた絵師なので、風景画は余り残されていません。
珍しい、深川側から描いた永代橋です。沖にあるのは佃島ですが、富士山は描かれていません。
渓斎英泉『英泉江戸名所 永代橋』
フットワークが軽く、精緻なタッチの渓斎英泉らしい作品。根津の花街に移って女郎屋を営むなど、まさに奇才というイメージの英泉ですが、この錦絵も独特のアングル。上流側、現在の中央区側からの眺めです。
目の前の立派な蔵は、1746(延享3)年にこの地を拝領した徳川御三卿・田安家の邸。眺望に優れていたので、佃島夕照、深川夜雨、永代橋帰帆、霊岸寺晩鐘、石場晴嵐、中州落雁、三又秋月、筑波暮雪を「函崎八景」としていました。
現在の日本橋箱崎町は、隅田川沿いに倉庫が並んでいます。
歌川広重『江戸十橋之内永代橋』(川長版)
屋形船や、水上バスでの遊覧が楽しめる隅田川ですが、江戸時代にも舟遊びは人気の遊興。成田詣でも大店(おおだな)の主人は、芸者を連れて舟で向かいました。
歌川広重『名所江戸百景 永代橋佃しま』(魚栄版)
安政4年の刊。摂州佃村(現・大阪市西淀川区佃)の漁師がこの江戸に下り、徳川幕府の庇護のもとに、隅田川の出洲の一角に土地をもらって、江戸湾の漁業基地としたのが佃島。白魚をとって、それを城内に運ぶという特別の任務を担っていました。
江戸の白魚漁といえば四つ手網に篝火というわけで、橋の下の漁火は白魚漁です。
雛の節句の祝い膳には白魚のすまし汁というように、早春、産卵に川を上る白魚を、永代橋の下で捕獲していました。
「月は朧(おぼろ)に白魚の篝(かがり)も霞(かす)む春の空」は、歌舞伎『三人吉三廓初買』の「大川端庚申塚の場」での女装の盗賊・お嬢吉三(おじょうきちさ)の名セリフ。
このイントロ部分は知らない人も、「こいつぁ春から 縁起がいいわえ」の締めはご存知かと。
大川端とは隅田川(大川)の下流部。庚申塚というのは両国にあった百本杭ともいわれますが定かでありません。
江戸切絵図に見る永代橋
永代橋 | |
名称 | 永代橋/えいたいばし |
所在地 | 東京都中央区新川、江東区佐賀 |
電車・バスで | 東京メトロ東西線・都営地下鉄大江戸線門前仲町駅から徒歩12分 |
駐車場 | 周辺の有料駐車場を利用 |
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