海中に海底神社も鎮座する千葉県館山市波左間(はさま)。
夏は海水浴でも賑わう羽佐間地区ですが、その集落前、漁港近くの海岸に海に突き出したコンクリート製の構造物が。
かなり歴史を感じさせるこの構造物こそ、水上特攻艇(特殊潜航艇)「震洋」(しんよう)の搬出路跡なのです。
本土決戦に備え「海龍」、「震洋」を配備
レイテ沖海戦で敗北を喫し、制海制空権を完全に失った日本軍は、いよいよ本土決戦に備えます。
昭和20年1月19日に「帝国陸軍作戦計画大綱」が示され、「東京湾守備兵団作戦方針大綱」では、「敵の上陸が予想される館山湾、平砂浦、千倉湾に特に邀撃体制を強化する」ことが定められたのです。
そのために日本海軍は、特殊潜航艇を改良した水中特攻艇「海龍」(かいりゅう)部隊、そして水上特攻艇「震洋」部隊を南房総に配備することを決めます。
↑水中特攻艇「海龍」。こちらは潜水艦スタイルの特効艇
「震洋」は、ベニヤ板製モーターボートの船内艇首部に爆薬を搭載。搭乗員が乗り込んで操縦して目標とする敵艦に体当たり攻撃を仕掛ける水上特攻艇。
エンジンにはトヨタの4トン積トラックの自動車エンジン(トヨタ特KC型ガソリンエンジン)を改良して搭載しました。
木造艇5隻と極薄鋼板艇2隻の試作艇は、昭和19年の5月27日の海軍記念日に完成、8月28日に正式採用されました。
構造が簡単であることから民間の軍需工場で生産され、終戦までに6197隻が製造、当初はフィリピンなどの沿岸にも配備。
↑モーターボートのような水上特攻艇「震洋」
第59震洋隊が洲崎に近い波佐間に基地を構える
東京周辺では、小笠原諸島の父島・母島に配備されたほか、第27震洋隊が三浦半島の小網代(神奈川県)、第51震洋隊が伊豆半島の下田(静岡県)、第55震洋隊が千葉県勝浦鵜原、第56震洋隊が三浦半島の油壺、第57震洋隊が伊豆半島・下田の和歌浦、第58震洋隊が銚子の外川、第59震洋隊が館山・洲崎波佐間、第68震洋隊が千葉県東庄町笹川、第129震洋隊が房総半島・勝浦、第135震洋隊が房総半島・安房小湊、第136震洋隊が静岡県の清水三保、第137震洋隊が伊豆半島・下田永津呂、第139震洋隊が千葉県飯沼、第140震洋隊が伊豆半島・稲取に基地が造られました。
南房総に多いのは、米軍の上陸が予想される館山湾・平砂浦・千倉湾に近く、艦砲射撃に耐える岩場が多いことから。
三浦半島や伊豆半島は、もうひとつの上陸予定地である相模湾沿岸に近く、やはり「秘密基地」をつくる湾や洞窟が多かったことから。
終戦1ヶ月前の昭和20年7月14日、東京湾に突き出した洲崎近くの西岬村波左間(現・館山市波左間)に、第59震洋隊(正式名:第五九震洋隊真鍋部隊)が配属されました。
総員は176名とかなりの大所帯。一型53隻、五型5隻の震洋を保有しています。
昭和20年7月31日付の「震洋艇並びに台車輸送および格納要領」には、波左間基地の壕(格納用の壕)は7本以上、洲崎灯台近くの壕は4本以上となっています。
館山市波左間と洲崎の岩場には素掘りの震洋格納壕が残されていますが、危険を伴うため見学はできません。
↑水上特攻艇「震洋」の1号艇
「震洋」海に送り出す滑り台の遺構が現存
昭和20年の8月には1号艇をすべて壕に収納し、爆装準備も完了していましたが、実戦で使われることはありませんでした。
のどかな波左間海岸に残るコンクリートの桟橋の残骸のような構造物が、震洋搬出路の跡(地元では滑り台と呼ばれています)。
格納した壕は、山側の海食崖の海蝕洞を利用しました。
実はこの波左間、幕末に異国船監視を目的に文化7年(1810年)〜文政5年(1822年)、波左間陣屋(松ヶ岡陣屋)が設けられ、白河藩士(福島)が配属されました。真言宗の寺・青龍山光明院の本堂裏にはこの地で亡くなった白河藩士の墓が残されています。
白河藩主で、老中の松平定信は、江戸湾警備の担当で、洲崎に台場(砲台)、波左間に陣屋を置き江戸湾の防衛にあたりました。
この陣屋の場所は「休暇村館山」南西の小高い海岸段丘上です。
「休暇村館山」に泊まったら、ぜひ、東京湾(江戸湾)入口という地理的な要因で、歴史に翻弄された漁村の遺産を見学してください。
↑のどかな波佐間漁港
↑地元で滑り台と通称される震洋搬出路の跡
水上特攻艇「震洋」出撃地跡 | |
名称 | 水上特攻艇「震洋」出撃地跡/すいじょうとっこうてい「しんよう」しゅつげきちあと |
住所 | 千葉県館山市波左間 |
ドライブで | 東京湾フェリー金谷港から31.3km |
駐車場 | 10台/無料、漁港周辺を利用 |
問い合わせ | 館山市観光協会 TEL:0470-22-2000(9:00~17:00) |
掲載の内容は取材時のものです、最新の情報をご確認の上、おでかけ下さい。 |
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